ロア

※本稿は関西某所にある病院の近くの喫茶店のマスターから聞いた話を基に構成しています。
 文中、店名など固有名詞は仮名を使用しています。



「刹那人」

明日はきっと今日よりいい日になる。

母とその娘はさっきから何度もそう言い合ってはギク・シャクと笑ってみせる。
別に天気や気運のことを言っているわけではない。
彼女たちの目的が良くなるかどうかということを言っているのだ。


病院坂の喫茶店ではずっと前からこんな光景が繰り返されてきた。

もっとも後からできたのは病院の方だ。
それまでは店の前の坂もおとぎ坂と呼ばれていた。

病院坂だなんて縁起が悪くて客が寄り付かなくなりそうだと思っていた。
しかしそれは間違いだった。縁起が悪いのはどう考えてもその通りだったが
店を訪れる客は以前よりも増えた。

ただ、どの客もある一定の期間――半年か長くて一年――の間にしばしば訪れて
ぷつりとその後は顔を見せなくなった。
使いかけのまま店でとってあるコーヒーチケットは何束もある。
まあ見舞いというのはそういうものだ。



お父さんきっと大丈夫、強い人だから
もうすぐ苦しいの終わるから




〜フィクション劇場「刹那人(せつなびと)」〜