【東十条】サン

「初恋」


紫陽花――――――。


あの人に気が付いたのは6月の終わりだった。
あの人は2年3組。


リノリュームの廊下のはじっこで目が合った。
それは気のせいだったかもしれないけど。
毎朝のHR(ホームルーム・学活)の後、廊下で見かけることが多かった。


これまで気づかなかったけれど、あの人とは通学路が一緒だった。


あの人は2年3組。

あの人の後ろを歩いていることがあった。
あの人が後ろを歩いていることがあった。


歩幅が同じせいだね。


あの人は2年3組。
いつも声をかけよう、かけようと思っていた。



あの人の姿を見ると梅雨の空が少しだけ晴れる気がした。
心に咲く花を照らす、あの人は太陽のような存在だった。
それは気のせいだったかもしれないけど。


真夏の登校日、あの人はいなかった。


夏休みが終わって2学期が始まってもあの人を廊下で見ることはなかった。
3組の友達にそれとなく聞いたら、夏の終わりに転校していったらしい。


あの人は2年3組。
いつも声をかけよう、かけようと思っていた。


始まる前に終わった恋。

それは気のせいだったかもしれないけど。


会いたい人には会いたいと思う時に会い、
伝えたい言葉は伝えたい時に言うべきだった。



あの歩幅で 並んで歩けたら 同じ速度で歩けたのに。




いつまでも あると思うな 親と喫茶店





〜フィクション劇場「或る季節の賛美歌」〜 おわり。









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