【コザ】珈琲美学 やま

夏の日。

煮え立つような暑さの表通りから路地に逃げ込む。
昼のそこには喫茶があった。

カラコロと鳴るドアを開けて店内を見回す。

どこでもお好きなとこをと言われてとりあえず外の日差しが届かないかどっこの席に決める。

座るなり汗が染みだしてくる。
扇風機の風が汗ばむ肌にあたって涼しい。
急に体を冷やすのは風邪をひきそうで体に良くない。
でも気持ちいい。

優しそうなマダムが暑かったでしょうと言いながら置くグラスの水をすぱっと飲み干す。
そして客は言う。


「アイスコーヒーを! 下さい!」


あまりの勢いにマダムは少しびっくりした顔をしたあと
はいはい、アイスワンね〜とにこやかに言いながらカウンターの中へ戻る。
一枚板だろうか、見事に仕上げられたカウンターは波型に湾曲していて珍しい。
しかし今はそんなことどうでもいい。
とにかく暑い。

壁に埋め込まれたテレビの中ではヘルメットをかぶった若者が大挙して街を練り歩いている。
何の騒ぎだろう。


涼しい場所で冷たい飲み物を飲んでも火照りはまだ引かない。
じっとりとした気分でアイスコーヒーを待つ。

そうして運ばれてきたグラスは表面につぶつぶの汗をかいていて
それがまた夏の叙情を感じさせるのだ。

好きだと言うかわりに、一口で飲み干す。
そして客は言った。


「アイスコーヒー、おかわり。」



2杯目はカウンターの仕立てのことなど話しながら、ゆっくり飲むことにしよう。





テレビでは丁度、丸太を抱えた学生が庁舎の門に体当たりをし始めているところだった。




〜フィクション劇場「或る喫茶店の風景 -#004-」〜 おわり。








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