【思案橋】冨士男



「タナカヤ」で流行の服を見物したあとは、「銀嶺」か「冨士男」という店で休む。
「冨士男」は珈琲がおいしい。



これは作家・遠藤周作の『砂の城』の一文だ。

遠藤周作隠れキリシタンをテーマにとった小説を執筆するにあたって
キリスト教伝来の地・長崎において綿密な取材を行った。
その成果は昭和41年に小説『沈黙』いう形で結実する。


遠藤周作が取材活動のあいまにしばしば訪れたのがこの冨士男だ。

創業は1946年。
長崎でも老舗の純喫茶である。


長崎の中心部、鍛冶町というところに構えられた店は
創業時から続く歴史の重みが感じられる。



かといって大仰でとっつきにくい店というわけではなく
開店直後からモーニングを食べに来る近所の常連の方や
観光だろうか、たまたま見つけた名店の威厳に気押されながら席に座って
落ち着かない様子でいるお客さんも元気の良いまっすぐな接客で迎える。


サンドイッチなどのトーストを使ったメニューが人気で、中でも
さっぱりとしたやさしい口当たりのエッグサンドがとてもおいしい。

老舗ならではの重厚さと、大衆に親しまれる純朴さが共存する素晴らしい喫茶店だ。

遠藤周作の作品が世代を越えて読まれるように、
冨士男さんにも時代をこえて頑張ってほしい。








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